強深瀬橋しか目の前に現れん奴らの話をしよう。
強深瀬にも親切に今は橋が架けられておる。
昔は船でしか渡れんかったが今は、橋も架かりスッカリ現代風じゃ。
この世と、あの世は言わば双子の世界じゃ。
この世が変われば、あの世も変わる。
だからな、昔ながらに六文銭持たされてきても使うには換金せねばならん。
ま、わしら二人に会えば、換金してやるぞぃ。
だから安心して、たんまりと持って来てもよいぞ。
こちらでは使えんがのぉ。
ん?
何何?
『地獄の沙汰も金次第』と聞くとな?
そりゃーな。
生きてるうちに沙汰を変えるために使っとけな。
地獄にきてから賄賂渡す話と思ったらあかんぜよ。
立派な服を着て、高い持ち物持ってても、貧しい人や困ったものに施しもせず、経を読むため聞くための布施もせず、強欲のためばかりに金を使っとりゃーな。
沙汰も其れなりじゃ。
地獄の沙汰も金次第とは、金が使えるうちに使ってなんぼ、使い方次第によっては地獄でのレベルが変わる話なのじゃよ。
例えば、同じ額の金の使い方でもな。
ありがたい経を沢山の人に施すものと、ありがたい経を打ち捨てるための者が同じハズはない。
己れの身を飾るに忙しい金の使い方をするものと、霊場にて萬霊に向けた供養を頼む金を使うものが同じなハズもない。
ようは、どれだけ人に尽くし、人も一緒に上がれるように生きられたか、と言うことが大切なのじゃ。
❮蜘蛛の糸❯と言う話を知っておるかの?
どんな善行を積もうと、己れ一人が善ければ、あとは知らん。と思う心は強深瀬を歩くことに繋がるのは言うまでもない。
まぁ、ここに集う皆さんは聞くまでもなく、他に施し己れを律して戒を守り、佛様とは仲良しじゃろうから、見聞を広げるつもりで見聞きしたら善いじゃろう。
強深瀬には色々な者が来るぞい。
何何?
死刑囚?そういう者もおるなぁ。
何何?
詐欺師?そういう者もおるなぁ。
何何?
あの人はどんな事をしたのかって?普通に見えるって?
あー、ありゃ親殺し子殺しの池じゃよ。
時間が来ると沈んで行くのじゃ。
ん?殺したら全員かと聞いたか?
全員ではないぞ、心から反省し懺悔し赦しを乞えない者共じゃ。
親殺し子殺ししても当たり前と思って懺悔の心を持たないものだ。己れを正当化し心は鬼と化している。
だから地獄にいるんだな。
何か事情があったことは解る。
しかし、縁有って親子となったもの、それなりの因縁を懐いておる。
それを修行して初めて人の道であったのじゃよ。
だからのぉ、私らはそれに気付いてもらうまで、こうして橋からたまに様子を見るに留めておくのじゃ。
こればかりはのぉ。自分で気が付かねばならない。
手伝ってやりたいがのぅ。心が変わらねば、地獄もかわらん。
ささ、橋を渡ってしっかと見聞を広げなされ。