最近はソロキャンプが流行っているようだが、私は約20年前にバイクに荷物を積み、一人キャンプ旅をしながら休日を過ごすこともあった。
もちろん日程に余裕があったり、難所の少ない時には、小僧さんとタンデムキャンプ旅をしていた。
愛車にテントやキャン道具を満載し、キャンプ場近くの温泉に行ったり、それなりに色々経験値を上げた時期があった。
今日はその中でも世にも恐ろしい【テントで2合】と言うお話を語ろうと思う。
場所はご近所さんに申し訳ないから伏せておきます。
その日は市場で買い物をしてキャンプ場へ。
平日と言う事もあり誰もいない無人、無料キャンプ場。
波の音がする松景色の美しい砂浜に隣接するキャンプ場。
夕方に到着しテント設営。
バイクの隣にテントを張れる絶好のロケーション。
辺りには街灯などが無く日没過ぎると辺りは、真っ暗になるであろう事が予想される。
早くしなければ暗闇の中、テントまで戻って来なければならない。
簡単な夕飯材料とバーボンを準備して温泉へGO!
今はほとんど呑まないが、若い頃はバーボンとラム酒が大好物。
まぁ、ババァになって体力が無くてお酒が呑めなくなってしまっただけで、別に不飲酒戒を気にして呑まない訳ではないので、ご心配には及びません。
近くには真っ黒なお湯が珍しい日帰り温泉があり、汗を流して温泉堪能。
薄暗い中、トイレを済ませてテントに戻る。
夕飯兼バーボンを嗜み波音を聴きながら、気持ち良く就寝。
夜も更けしばらくするとバイクの音がする。
近づいて来る。
『随分遅い時間の到着ね』と思う。
ボー
『随分近くに来るしライト眩しいわぁ』と思う。
ボー
『あぁ貸し切り過ぎるキャンプ場で一人心細いのね、それにしてもイビキ聞こえる距離に来るとはソロキャン初心者かな?』と思う。
ゴソゴソとテントを設営している様子。
近いなぁ。
『まぁバイク乗り同士で会話したいのかもな』とか私のテントにもバイクがあるから親近感を感じてるのかもね。
しばらくして、設置する音も鳴り止み就寝したようだったので、テントのチャックをそーっと開けてみた。
淡い紺色の小さなテントと、ネーキッドバイクが3メートル位の先にある。
『ネーキッドバイクによく荷物積んで旅してるね〜』と思う。
『まぁ私と一緒で貧乏宿無し旅の兄さんだろうなぁ。』と思う。
私はまたぐっすり夢の中へ。
しばらくしてトイレに行きたいと思い目覚めるが辺りは真っ暗。
トイレまで行くか我慢するか悩むが、真っ暗な中、周りも静かになったことから波音が異常に大きい。
『ちょっと怖い気もする。時間を見るとすでに3時を過ぎている。もう少しすれば白じんで来る。もうちょい待とう。トイレに行きたい気を紛らわそう』と思う。
『そうだ、朝飯の準備しよう、ご飯炊いて隣の兄さんにも振る舞おう、市場で買ってきた常温干物もあるし♪』と思った。
思ったら即行動。
無洗米を飯盒に2合、水を入れてテントの通風口を開けて死なないようにして、ガスバーナーを組み立てる。
ガスコックをひねりライターで点火。
時計と炊きあがる音を聞き逃さないようにして、絶妙の時間で火から下ろす。
だいたい20分位でパチパチと音が変わったら下ろして15分位裏返して待つのよ。
さぁ、出来た。
炊きたての白米を皿によそって、そのまま干物や、じゃこせんべいなんかを乗せてパクリ。美味しい。
そんな事をしていたら辺りが白じんできた。
夜明けだ。
『さぁ、待ちに待ったトイレに行こう。戻って来たら兄さん起こして朝飯驚くかな?断られるかもな?イヤイヤ、バイクソロキャン旅の醍醐味は。行きあたりばったり。ささ、トイレトイレ。』
テントのチャックを静かに開ける。
ん?
砂浜。
んー?
その先は看板。
【この先はウミガメの産卵地です。立ち入らないでください】
ん?
その先はなだらかな崖。
ん?
2メートル先には看板。
3メートル先は空中。
んー?
とりあえずチャックを閉めて、夢でネーキッドバイカーの夢を見ていたのか?と言う脳内革命と、現実に目の前にある2合炊いたご飯の、推定1, 5合残っている白米の入った飯盒を見つめ、今何をやるべきか考える。
『トイレに行こう』
トイレから戻り、飯盒に残る白米をどうするか考えてみた。
『サランラップないから食べよう』
人は思考停止した状態で食べ物を食べなきゃならないスイッチが入ると、2合のご飯を食べる事が出来る事を知りました。
きれいサッパリした飯盒を道具入れに戻し、予定通りのルートからランチが割愛され、家に戻りこの旅は終結しました。
何が怖いって、2合のご飯食べちゃった私が怖いでしょう、
普段は1合も食べられないのによ?
この話には後日譚もあります。乞うご期待。